イラクについての見解、のはずだったんだが。

http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20031207k0000m030015000c.html

米大統領:7日を「真珠湾英霊記念日」に

【ワシントン中島哲夫】1941年12月7日(米国時間)の旧日本軍によるハワイ・真珠湾奇襲攻撃から62周年となるのを前に5日、ブッシュ米大統領は7日を「国民パールハーバー真珠湾)英霊記念日」と定める宣言文を発表した。

宣言文は、宣戦布告より前に行われた真珠湾攻撃で2400人以上の米国人が死亡したことや、これを機に奮起して第二次世界大戦に勝利した経緯、ブッシュ大統領が10月にハワイの慰霊施設を訪問したことなどに触れながら、「米国の自由は米国民の勇気に支えられている」と指摘。01年9月の同時多発テロをきっかけにした「テロとの戦争」でも真珠湾攻撃後の経過と同様に「我々は勝つ」と決意表明している。

また、米国民に対して7日には「適切な儀式と活動」を行うよう促し、連邦政府の機関や各種団体、個人に半旗を掲げて弔意を表すよう求めた。

宣言文の形式や論理展開は、大統領が今年9月、「9・11」を「愛国の日」と定めた際の発表と酷似している。大統領をはじめブッシュ政権高官は真珠湾攻撃同時多発テロを同列に扱うことが多く、今回の記念日宣言も同じような形態となった。

毎日新聞12月6日] ( 2003-12-06-17:32 )

えーと、久々にすごい記事を見つけたので触れておく。愛・蔵太氏が朝日新聞なら私は毎日新聞だ(笑)。ちなみに同様の内容の朝日新聞の記事はこれ
毎日新聞記事の何がすごいって、まず、毎年の話である「National Pearl Harbor Remembrance Day」を、あたかも今年初めて定められたかのように報じている点。私はこの記事を某所経由で目にしたとき、日本政府が必死で(いいか悪いかは別として)自衛隊イラクに送ろうとしているときに、真珠湾攻撃と現在の一連のテロ戦争を同一視するような声明を出すとは何事か、とはなはだ憤慨した。アメリカ国内の反応はどうだろうか、大喜びだったら対米協力を考えなおさにゃならんなぁと思って、googlenewsその他いくつかのニュース検索サイトで調べてみたのだが、ほとんど反応がない。地方紙が報じているところがあるぐらいで、ニューヨークタイムズワシントンポスト等の主要紙、主要テレビネットワークのwebサイトにはいっさい記事がない。
これはなんか変だと思いホワイトハウスのサイトを見てみたところ、当該声明が見つかった。ふんふんそうかそうか、こういう声明か、なるほど日本人にとっては耳の痛い話だなぁ、と思ったが、よくよく調べてみると、去年も一昨年も声明を出している。改めて日本の新聞社のサイトを見てみたら、朝日新聞が上記のように報じており、別に今年始まったわけではない由。毎日の記事は、大変誤解を招く記事である。
日本では、記念日は一度誰かが宣言すればそのまま毎年記念日だが、このNational Pearl Harbor Remembrance Dayについては毎年宣言している。アメリカの記念日が一般的に毎年宣言しなければならないものかは知らないが。
さて、宣言の内容について、毎日新聞は以下のように書いている。

宣言文の形式や論理展開は、大統領が今年9月、「9・11」を「愛国の日」と定めた際の発表と酷似している。大統領をはじめブッシュ政権高官は真珠湾攻撃同時多発テロを同列に扱うことが多く、今回の記念日宣言も同じような形態となった。

これも非常に誤解を招きやすい表現だ。これを素直に読むと、まるでアメリカが日本とアルカイダを同列視しているように見え、日本人としては憤慨するところだろう。しかし、しかしだ、何を持って「形式や論理展開」が「酷似している」と述べているのか。中身をご覧ください。
今年のNational Pearl Harbor Remembrance Dayの大統領声明
今年の9月11日、Patriot Dayの大統領声明
クリントン政権下、1999年のNational Pearl Harbor Remembrance Dayの声明
まず「形式」の面でいえば、冒頭に記念日の名前を書き、その次にBy the President of the United States of America / A Proclamationとした上で本文に続き、最後にNOW, THEREFORE, I, GEORGE W. BUSHやIN WITNESS WHEREOFで始まる段落で締める、という形式は確かに似ている。しかし、同時多発テロ以前の、1999年の声明を見て欲しい。これだって形式は一緒だ。他の記念日の声明は見ていないものの、おそらくこれはアメリカ政府が何かの記念日を宣言するときの定型であると見てよいのではないか。
次に、「論理展開」を見てみよう。毎日が何をもって「論理展開」といっているのか判然としないが、とりあえず声明文のあらすじを追ってみよう。
今年のNational Pearl Harbor Remembrance Dayの声明は、まず冒頭で60年前の真珠湾に日本の宣戦布告のない奇襲があり、アメリカが大変な損害を受けたことから書き起こしている。そしてアメリカ市民は立ち上がり、見事勝利を遂げた。この記念日は、真珠湾攻撃で亡くなった人と、退役軍人に敬意を表し、また世界中で自由を進めるために働いている人々に対し賛辞を送る、としている。
二段落目では、戦艦アリゾナの話。ここでも勇敢な多数の人々が亡くなったことを思い、我々の自由を守ることが戦死者に対する供養になる、と述べている。
三段落目では、アメリカの自由は勇敢なアメリカ人に支えられており、自由と民主主義の恩寵を守るためにアメリカ人は立ち上がってきたし、同盟国の力も借りてテロとの戦いを進めている。真珠湾後のアメリカがそうであったように。そしてアメリカは勝であろう。
そして四段落目以降は定型文である。
Patriot Dayの声明を見てみよう。まず、2年前多くの人間が亡くなったことから書き起こしている。二段落目でそこからアメリカ人が勇敢にも立ち上がり、アフガニスタンで、イラクで自由を進めアメリカをテロから守っている、と続けている。三段落目ではアメリカがテロと戦っていくことを高らかにうたいあげ、テロリストに正義の鉄槌を下すとしている。四段落目以降は定型文である。
まぁ似ていないこともない。「アメリカに対する攻撃」「大変な被害」「自由と民主主義のために立ち上がるアメリカ人」「友情努力勝利」。しかし、これも同様に1999年の声明を見て欲しい。2003年真珠湾声明と2003年愛国の日声明が似ているのと同じぐらい、1999年真珠湾声明とそれら二つは似ている。つまり、これも定型的なものと考えられないか(少なくとも真珠湾攻撃で大変な被害が出たところから書き起こし、戦艦アリゾナを引くところ、そこから見事アメリカ国民が勇敢に立ち上がって自由と民主主義を守ったところは真珠湾声明の定型と言っていい)。
こうしてみると、確かに愛国の日声明と真珠湾声明は似ているが、真珠湾声明のそもそものフォーマットに乗っかって愛国の日声明が作成されているとも言え、さらに言うならばその他の戦争に関する大統領声明は似たようなものである可能性が高い。
さて、毎日新聞記事に戻ってみよう。ひどい記事である。まず見出しを「米大統領:7日を「真珠湾英霊記念日」に」とし、第一段落では真珠湾記念日が以前からあることに全く触れず、あたかも今年初めて宣言されたかのように書いている(前述したが、日本では何かの記念日を宣言するのは初めてその記念日を指定するときだけ、というのが一般常識である)。そして、911声明と真珠湾声明を比較し、「酷似している」としているとし、さらに「大統領をはじめブッシュ政権高官は真珠湾攻撃同時多発テロを同列に扱うことが多く」とまで書いて、あたかもアメリカが同時多発テロ真珠湾攻撃を同列視しているように印象づけているが、そもそも2003年真珠湾声明自体が過去の「形式と論理展開」に則ったものであり、911声明自体もその「形式と論理展開」を踏襲していることから、特段アメリカ政府に「日本とアルカイダを同列視する意図」があるとは思えない(形式と論理構成を同じにしてちょこちょこっと枝葉末節を変えるのは、役人の文章の作り方の基本である)。
この記事は、事実関係の確認を怠った記者失格記者が書いた記事か、意図的に世論を誘導しようとした、TBSねつ造問題に通じる記事である。確かにこの記事中、間違った記述はない。ブッシュ大統領が宣言したのは事実だし、宣言の内容も正しく伝えているし、宣言文は911声明に酷似している。しかし、過去にも真珠湾宣言があるなんてことは少し調べればわかるし(現に朝日はきちんと伝えている)、この文章が米国政府の定型である可能性を全く伝えないなど同時に提供すべき情報を全くカットしてしまっている。日本人の常識をうまく利用し、あたかも米国が日本とアルカイダを同列視しているように日本国民に印象づけ、日本国民のアメリカへの反発を惹起させ、そして自衛隊派遣への反対世論を盛り上げさせようとしているかのようだ。はっきり言って卑劣である。
私はこの記事を読んだときに誤解したし、私の友人数名に意見を求めたところ同様の誤解をしていた。こういう記事をしょっちゅう毎日は載せるので(私の主観だが)、信用できない。
なお、当初National Pearl Harbor Remembrance Dayを「真珠湾英霊記念日」と訳した毎日のセンスも大変疑問に思ったが、英国のRemenbrance Dayが、第一次大戦の「英霊記念日」と一般的に邦訳されていることから、訳自体は問題がなかろう。


(追記)日経webサイトにおける記事は以下のとおり。参考までに示す。この視点は私にはなかった。「テロ組織と日本を同列視」どころか、「同列視を避けるためにあえて日本の名前を外した」という説明の方がしっくり来る。id:buddhiさん、情報提供ありがとうございます。日経は紙面は読むけどwebはみにくいのでなかなかみないのです…

真珠湾追悼の米大統領声明で、日本の国名削除

【ワシントン6日共同】1941年の真珠湾攻撃による犠牲者への追悼を呼び掛けたブッシュ米大統領の声明から、今年は「日本」の国名が削除されたことが6日分かった。イラク問題で国際的な批判が高まる中、米政権は自衛隊派遣をはじめとした日本の協力を重視しており、両国関係への配慮から例年通りの名指しを避けたとの見方も出ている。

大統領の声明には例年、攻撃を仕掛けた日本の名が出てくるが、このほど発表された今年の文言には奇襲の事実だけで国名は出てこない。  米国によると、旧日本軍によるハワイ・真珠湾への奇襲攻撃では2400人以上が死亡、約1100人が負傷した。犠牲者への弔意を表すため米国は攻撃のあった12月7日(日本時間8日)を追悼の日に定め、政府機関や国民に半旗を掲げるよう求めている。