政府のひきこもり関連事業

NEETが国会で初めて論じられたのは今年の2月だが*1、ではひきこもりはどうだろう。
国会会議録検索システムで「引きこもり」を検索すると(ひきこもり、では出てこない)、現代的な意味の「引きこもり」は実に平成5年に出現している(平成5年6月10日 参議院厚生委員会)。しかも、当時の局長によるならば、「引きこもりに関する事業」は平成3年に始まっている。

西山登紀子君 最後に一点お聞きします。

こういう子供たち(引用者注:不登校児、登校拒否児のこと)に対しまして、厚生省が一体何ができるかまた何をしなければならないかという点でございます。私は、九一年七月に起きましたあの風の子学園の事件を忘れることができません。登校拒否をしていた子供が私的施設でコンテナの中に閉じ込められて熱射病で死亡する、殺される、こういう事件が起こったわけです。こういう事件を契機といたしまして私が思いますことは、児童福祉法十三条の五に情緒障害児の短期治療施設が位置づけられております。これも義務設置ではありませんので、厚生省にお聞きしますと、昨年末で全国で十二施設、本年度中に大阪府徳島県で設置予定があるとのことですけれども、それでも全国で十五施設しかありません。もちろん、登校拒否の子供たちに対する対策がこれだけでいいというものではないわけですけれども、この際厚生省としてこの普及が必要ではないか。

この方針をお伺いいたしまして、質問を終わりたいと思います。

○政府委員(清水康之君)(引用者注:厚生省児童家庭局長(当時)) 情緒障害児の短期治療施設につきましては、今御指摘のように大変に大きな問題だということから、家庭や学校での人間関係の影響などによって不登校とかあるいは孤立、不安、そういう児童がだんだん多くなっておりますので、それを入所させ心理治療や生活指導を行う、また学校復帰を可能にしていくというふうなこととして御指摘のとおり法定施設としての児童福祉施設が設けられているわけでございます。今十二カ所という御指摘でしたが、正確には新しく平成四年度中に一カ所できまして十四カ所ありまして、平成五年度中に二カ所新たに設けられることになっておりますので、最終的には十六カ所、約七百六十名ほどの定員が確保される見込みでございます。

先ほど文部省からお話がありましたとおり、登校拒否児というのは、五十日以上の方が五万数千人いるというふうな状態であり、かつ一般的に言うと増加傾向にあるというふうなことでございますので、私どもは、この情緒障害児短期治療施設の機能の充実が非常に望まれているというふうに考えまして、この施設整備を十分進めていくと同時に、実は平成三年度から引きこもり不登校児童対策のためにいわゆる家族療法事業というものを新たに始めております。これは、施設に家族の方とその不登校児童とが一緒に短期間宿泊していろんなカウンセリングを行うというふうな事業でございまして、この事業についての要望といいますか需要が大変多うございますので、これらも充実していきたいというふうに考えているわけでございます。

(後略)

(太字は引用者による)

答弁者が「児童家庭局長」というのも注目に値しよう。
なお、昭和20年以降で検索をかけると、誰それが「病気引きこもり中」という表現が出てくる。初出は昭和24年のことだ。また、昭和49年11月18日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会では、基地の騒音のために児童が教室に「引きこもり」という表現が使われている。平成元年3月23日の参議院国民生活に関する調査会では、「引きこもりがちな障害者」として使われている。興味深いことに、「病気引きこもり中」の表現は、昭和44年の衆議院運輸委員会以降ぱったりと使われなくなっている(現代的な意味での引きこもりが注目され言及が増加した平成9年以降はいちいち全てを確認していないが)。
平成5年以降「引きこもり」がどのような文脈で、どのようなニュアンスで言及されてきたかを調べると面白いことが分かりそう。なんだかんだ言っても国会での議論は行政に大きな影響を与える。その国会での論調が、ニートと引きこもりでどう違うのか、というのは研究対象だ。

*1:ちなみに検索すると昨年5月にも「ニート」が論じられているように表示されるが、読んでみるとなんのことはない、「ソニートヨタ」が引っかかっているだけだった(笑)