イギリスと比較してみる。

flapjackさんところでイギリスに注目したお話が(id:flapjack:20040909#p1)。せっかくなので話の前提として日本とイギリスを比較してみる。元ネタは公務員白書平成15年版

内大臣の下には、その政策運営を補佐する閣外大臣(副大臣)(Minister of State)、政務次官(Parliamentary Secretary)が置かれ、閣内大臣以下これらの行政府の役職には与党議員が合計して100人ほど就任する。このほか、大臣は政務秘書官(Parliamentary Private Secretary)を与党議員から任命できる。このように多数の与党議員が政府に入ることで、与党と内閣・各省の政治指導部は一体化され、政府与党の政策立案機能は内閣に一元化されている。

日本でも副大臣大臣政務官として与党議員が任命されている。各府省庁に副大臣が1から3人、大臣政務官が1から3人。官邸webサイトで数えたら合計六十数人。それなりの数と言えないこともない。ただし、伝統的自民党政権においては、大臣以下ほとんどの政府内与党議員は自民党内派閥の「順送り」人事により任命され、その人が本当にその職務に向いているかどうか等はほとんど考慮されない。
政務の大臣秘書官は、基本的にその議員の秘書が務める(そのほかに事務の大臣秘書官=役人がいる)。
与党自民党における政策立案機能は基本的に部会・調査会を中心としており、その意思決定ルートは部会−政調審議会−総務会という流れになる。政府と一体化していない。よって、政府が法律や予算を提出したり重要政策の決定を行う際には、政府内意思決定過程とは別に自民党内で承認をとる必要がある(いわゆる「事前承認」)。
そもそもイギリスの大臣ってどういう人がなって平均的にどれぐらいの期間在籍するんだろう。

イギリスの公務員は、伝統的に国王の奉仕者として位置付けられ、国王に対して忠実に奉仕する義務を負う。

戦前は日本の公務員も「天皇の官吏」だったが、ご承知のとおり現在では憲法第十五条により「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」とされ、また同第二項においては「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」と規定されている。

他方、大臣が行う政策立案・運営を政治的側面から支援する人材として、副大臣政務次官のほかに、特別顧問(Special Adviser)が設けられており、この特別顧問が政治任用者に該当する。特別顧問は、政府内において閣内大臣を政治的な側面から補佐・支援することを目的として設けられ、閣内大臣個人が自由に政治任用できるものとされている。彼らは臨時的な国家公務員として位置付けられている。

「特別顧問」という職はないが、「顧問」という身分の人がいる省庁はある。しかし事務次官OBが就任していたりして、実質的には意味がない。
大臣の諮問機関として各種審議会が設けられているが、「閣内大臣個人が自由に政治任用」するものではない。
なお、官邸には政治任用の顧問がいたりする。拉致問題でおなじみの中山参与ってどういう位置づけなんだろう…。

職業公務員の場合、非能率、心身の故障等の事由に該当しない限りは免職されないとされ、処分に際しては「退職委員会」への諮問の手続を経る必要があるなど、身分保障が認められている。政権交代の場合にも、事務次官、局長を含めた職業公務員が異動を求められる慣例はないなど、職業公務員の人事に政治家は介入を自制する伝統がある。

あまり免職されないのは日本の公務員も同じ(非能率、心身の故障であってもなかなか免職されない。が、故宮本政於氏は結構簡単に懲戒免職にされたような)。事務次官以下の公務員については政権交代しても変化はない。ただし、局長レベル以上の任命については閣議の承認だか了解だか内閣官房長官承認だかが必要だったような気がする。そして、そのような高級官僚の任免については非公式な形で自民党有力議員の影響力が行使される、こともあるようなないような、ということを聞いたような聞かないような。
ごく稀に政治家が役所の人事に介入しようとすることがあるが(通産省における熊谷大臣、外務省における田中大臣)、役人側は激烈な抵抗をするのが通例。

職業公務員は、政府の政策を中立的に支えるべく、その政治的中立性に疑問を投げ掛けられるような行動、例えば行政府外の国会議員に対して政策の説明を行うようなことはすべきでないとされている。

一方、特別顧問は政治的背景を持って職務を行うことから、こうした職業公務員に求められる行動規範は、特別顧問には適用されない。また、職業公務員と違い、政府の政策に関する大臣の見解をメディアに伝えることができる。これらの特別顧問の地位、職務、行動、報道機関との接触、政権与党との関係、政治活動の規制などについては、内閣府が定めた「特別顧問行動規範(Code of Conduct for Special Advisers)」により明記されている。上記を除いては、特別顧問は臨時的な国家公務員として、国家公務員一般に適用される各種規範(国家公務員綱領、国家公務員管理コード等)に従った行動が求められる。

日本においては、与野党問わず国会議員への「ご説明」(いわゆる「根回し」)は全て公務員の仕事である。部会の資料セットまでやる。また、議員から大臣等を経由せず局長・課長あてに直接各種の「お願い」が来たりすることもあったりなかったり。副大臣大臣政務官の制度を導入した省庁再編の際、政治との関係においては彼らがやるという仕切りになっていたような気もするが、実際のところ機能していない。また、イギリスはどうか知らないが日本では役人が「政府参考人」として国会でしょっちゅう答弁する(「これは重大な問題でございまするので、技術的な点もございますし、種々なる関係上、防衛局長から答弁をさせます」故久保田円次防衛庁長官)。
メディア対応も、大臣記者会見を除けば基本的に公務員が行う。利益団体との接触も公務員の仕事。大臣スピーチの原稿書きも公務員の仕事。

…なお、政治と行政が果たす役割、それぞれの職業規範が明確に分かれているため、イギリスでは職業公務員が政治家に転身するケースも少ないとされる。

日本では従来から公務員が政治家に転身する例が見られた。その場合多くは局長や次官まで勤め上げた後、自民党とのパイプを活かして出馬するものだった。選挙戦でも「中央とのパイプで地元に利益を」的主張が多く見られたような気がする。
近年では、引き続く官僚バッシングや役所独特の意思決定の遅さ等による無力感から、役所を辞めて政治家に転身する若手官僚がそれなりの数いる。この際、本当なら政治的思想が近い自民党から出馬したいところだが、選挙区が空いていないため、民主党から出馬することもあると聞く(自民党待ち行列は、議員二世・三世、秘書、コスタリカ方式の片方、県議会議員からの転身、事務次官上がりの役人といった人々で膨大。他方民主党は候補者が足りない状況)。

職業公務員は、専門的立場から大臣に政策案を提起したり助言を行い、また、行政の執行を中立・客観の立場から公正に行う役割を担っている。一方、特別顧問は、職業公務員から大臣に提起された政策案や報告について、大臣が判断を行うに当たって政治的側面に立った助言や支援を行ったり、大臣に代わって対外的なスポークスマンを務めるなどの「大臣の政治的顧問」の役割を果たしている。特別顧問が担い得る具体的な職務内容については、内閣府が発出した特別顧問行動規範の中に列記されている。

日本では公務員が「根回し」までやる以上、そもそも政策立案の段階から政治との関係が非常に意識される。自民党での事前審査や国会審議で「持たない」と思われる政策はそもそも立案されない(案はあるが、日の目を見ない)。よって、政治センスや政治家とのコネクションがなければ、優秀な幹部公務員にはなれない(もっとも、全ての幹部ポストにこれらの能力が求められるわけではない)。
だからといって政策が自民党ベッタリなわけでもなく、(政治的中立性は当然のこととして明示的に求められているが)公務員の矜持として公正な政策を心がけているように思える。
なお、自民党と役所の関係は、どちらが優位かという点について長年の議論の的である。

イギリスでは、雇用の流動性が一般的に高く、こうした条件の下で、例えば、公務部門においても、上級公務員(本省課長級以上に相当し、エージェンシーの長等を含む。)の職に欠員が生じた場合に、3割程度は公務外からの公募による採用によって確保されている。特別顧問についても、こうした労働市場環境が背景にあることで、マスコミ、政党、研究者などからの有為な人材確保を可能にしていると言える。

「一般に高く」の示す程度が不明だが、日本では一部の職種を除き外部労働市場が発達しておらず、(特に「ホワイトカラー」の)雇用の流動性は低いように思われる。そもそも日本の公務員制度においては「欠員が生じた場合」というのが想定しにくい(「雇用の流動性が一般的に高く〜」という文言を前提とし、「欠員が生じる」という言葉を「役所内にそのポストを埋めるだけの適当な人材の頭数がそろわない」と解釈した場合)。むしろピラミッド型組織を維持するために、そして公務員の人件費総額を抑制するために、40代から「肩たたき」が行われ、なんとか人減らしをしようとしている(その結果が天下りだったりする)。
イギリスの上級公務員公募で一つ分からないのは、彼らは「事務次官レース」に加わる性質の人たちなのかどうか。2,3年勤めてまた外部労働市場に帰っていく人たちという気がするけど。貿易産業省事務次官の経歴を見ると、ここで言う「職業公務員」は事務次官レースを行っていると考えられる。職業公務員と外部公募の上級公務員では求められる資質に違いがあるのか。


ってなところでしょうか。