総務省よ…

総務省は27日、自殺サイトなど「有害情報の温床」ともいわれるインターネットを健全に利用するために、ネットが持つ匿名性を排除し、実名でのネット利用を促す取り組みに着手する方針を固めた。匿名性が低いとされるブログ(日記風サイト)やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)を小中学校の教育で活用するよう求め、文部科学省などと具体策を詰める。

 今週初めに発表する総務省の「情報フロンティア研究会」の最終報告書に盛り込む。 国内のネット人口は増加する一方だが、匿名性が高いために自殺サイトの増殖や爆弾の作製方法がネットに公開されるなど、犯罪につながる有害情報があふれている。総務省はそうしたマイナス面を排除し、ネットを経済社会の発展につなげていくためには、実名でのネット使用を推進し、信頼性を高めることが不可欠と判断した。

共同通信) - 6月27日9時36分更新

昔新潟あたりに、ネットに公開していた情報を元に居場所をたどられて、殺された大学生がいましたな…
さて、情報フロンティア研究会のサイトはこちら。一番下の配付資料のところに報告書の案があります(PDF)。「ICT」などという一般的になじみのない用語を何の断りもなく使う神経から疑われますが。ブログについての記述も。

一方、個人のネットワークへの参画意識の高揚により、ブログ・SNSといったサービスが生まれ、急速に発達しつつある。ブログについてはネットワークを自ら情報を発信・交換するための媒体として捉える人々が増加していること、SNSについては無差別・無分別な情報発信・交換ではなく、価値観を共有できるグループ内で交流を深める傾向が強まっていることにより、利用者が爆発的に増加しており、今後は個人による情報発信手段として、個人メディアの中核を担うものと期待されている。

各論のところにもブログやSNSについての詳細な記述があります。いろいろいいことも書いてあるのですが斜め読み。実名匿名の話は提言あたりにいきなり出てきます。

①ネットワークの信頼性を高めるための個人のICT利用意識の向上

P2P技術を使った違法なファイル交換や内部犯行による個人情報漏洩などの事件が発生していることにも表れているように、様々なセキュリティ技術が開発されたとしても、ネットワークの信頼性を高められるか否かは最終的には利用者のモラルに関わるところが大きい。

この観点からみた場合、日本社会では、ネットワークを利用する者としての自覚が社会的に十分に形成されているとは言い難い。とくに、サイバースペースが匿名性の高い空間として認識され、極端な場合、ばれなければ何をしてもいいという安易な発想すら助長する傾向を持っている。情報化社会の若者は、膨大な情報メディア環境の中で、自分にとって必要な情報のみを取り入れるフィルターを構築し、その内向きな情報環境の中に閉じこもり、自分の領域に対する他者の侵入をできる限り排除しようとするだけでなく、相手の心に踏み込んで感情や行動に影響を与えないように距離を置く強い傾向も一部観察されている。これではICTによるネットワークが産性を活かした社会的ネットワークの拡大、更にはそれによるイノベーションの創出を促すことはできない。

しかし、現実の世界では日本は依然として個人のモラルは高い国である。現状の問題はむしろ現実世界でいうところの躾といったものがサイバースペースに関しては何ら体系立って行われてこなかったことも大きな原因である。このような現実世界と同様のサイバースペースにおけるモラルを、利用者に定着させる取組みを行うとともに、個人がネット社会全体に貢献するために自主的・献身的にコンテンツを発信したりする部分、をうまく醸成できるような環境づくりを行う必要がある。

さらに、先に述べたように、日本の社会では情報ネットワークが匿名であるという認識に基づいて色々な活動が行われているがゆえに、社会生活全般においてICTが利活用されていく活力が高まらず、社会心理的なデジタルデバイドと言うべき、サイバースペースへの忌避感が拡がっている。そのため、ある程度高度なICTを活用している層においても、その活動量、活力は、他の社会に比べて低いことも指摘されている。

こうした課題を克服する方策の一つは、義務教育課程である初等・中等教育の段階で高度なICTリテラシー教育を行うことである。個人のICT利用意識の向上にも関連するが、ICTにより実現されるバーチャルな環境を、現実社会と同じ感覚で活用すること、すなわち、サイバースペース上で実名又は特定の仮名で他人と交流することを自然の術として身につけるための教育が必要である。

……上段部分、作文が主な仕事の役人が書いたにしては何を言いたいのかがよくわからないひどい文章ですが、ネット上の「躾」というアイデアには賛成です。しかしそれは「実名を使うことの奨励」ではないはずです。そして、下の方の引用部分では、「実名又は特定の仮名で他人と交流することを自然の術として身につけるための教育が必要」とされており、実名だけでなく特定の仮名すなわちハンドルネームで他人と交流することについての教育も必要としています。
また、「ある程度高度なICTを活用している層においても、その活動量、活力は、他の社会に比べて低いことも指摘されている」としています。おそらく研究会で委員の先生から指摘があったのでしょう。根拠は全く不明ながら、まあ推測するにおそらくブロガーの活躍がアメリカの方が多い、というぐらいの話でしょうか(たぶん議事録を読めば書いてあるのでしょうが、面倒なのでチェックせず)。しかしそれは「匿名」とは直接関係のないことです。強いて言うならば、たとえばアメリカに比して日本では外部労働市場が発達しておらず、個人が組織に従属しがちなために、実名で意見表明をすることのメリットよりデメリットの方が大きい、というぐらいの話ではないかと。実名教育を慫慂すれば解決する問題じゃないです。
第6回の研究会でどんな話があったかわかりませんが、少なくともこの段階の「報告書案」では必ずしも即座に「実名奨励」ということにはならないような気がします。共同通信の記者がよく理解していなかったのでしょう。とりあえず、議事録と、第6回の議論をふまえた最終報告書案を見てみる必要がありそうです。