ダウンジアンモデルで見る郵政総選挙(上)/二大政党の政策が似てくるわけ

「わずかな得票で3分の2もの議席を占めるとは、やはり小選挙区制はひどい制度だ」なんてほどのことではありませんが、「政策が似ていて、真の野党がいない」といった批判も聞かれます。これらは、いずれも小選挙区制度を採用する時点でわかっていたことです。もし大問題なら修正すべきですが。
死票が多いのは置くとして、小選挙区制度でなぜ政党が二つになるのか、その両党の政策が似通ったものになるのはなぜかについては、既に大昔のアメリカで研究がされています。(以下、昔の知識を振り絞るので、間違い等については適宜ご指摘されたい。)
アンソニー・ダウンズが発展させた理論で(なので「ダウンジアンモデル」)、ホテリングによる元々のアイデアは雑貨屋はどこに立地するのが理想的か、ということ。消費者は自分の家から一番近い店に行くという経済合理性を有しています。この場合、田中さんちと鈴木さんちがあったら、その中間にお店を作るのが理想的です。
さて、選挙において、仮に有権者が以下の図のように分布していて、かつ小選挙区だった場合には、政党の位置取り(=雑貨屋の立地)どうなるでしょうか。

図1において、Y軸は有権者の数、X軸はイデオロギーを表します(この場合のイデオロギーは経済政策におけるリベラルと保守です)。有権者イデオロギー的に正規分布していると、そして、有権者は自分のイデオロギーと一番近い政党に投票すると仮定します。
例えば図2にのように、A党が中道、B党がやや左の位置取りをしたらどうなるでしょう。

政党名の下にある太い縦線が、政党の位置取りです。だいたいこの辺に、各党が政策のスタンスを置く、ということです。この場合、A党とB党のイデオロギーの中間を境にして、右の人はA党に、左の人はB党に投票します。仮定にあるように、有権者は自分から最もイデオロギー的に近い政党に投票するので、両党の中間に位置する有権者のところで政党支持が分かれるからです。結果は明らかで、A党が勝ちます。
ではB党が勝つためにはどうしたらいいか。もっと中道寄りに自らの位置を変えることです。

図3で、両党はほぼ中間に位置することになりました。これで有権者の票を二分して、両党とも得票数を最大化させることができます。
というわけで、上記仮定の下では、小選挙区制度においては二大政党のイデオロギーが非常に近くなる=政策が似通ったものになります。ただし、これは有権者イデオロギー分布が正規分布を仮定しているせいでもあります。複数「こぶ」がある分布の時にはどうなるか。
例えば今回の郵政総選挙はどう考えればいいのでしょうか。また明日以降。