たばこ税

たばこで思い出した。たばこは健康保険財政に(程度は知らないが)悪影響を与えている。肺癌等の疾患の増加を通じて(たばこと肺癌の因果関係ってちゃんと証明できているんだったっけかな…)。世の中に嫌煙家は山のようにおり(むしろ主流)、その論拠の一つがこれだろう。禁煙法を制定せよと言う主張もしばしば耳にする。
いや全くそのとおりなのだが、たばこ税というのは政府にとって貴重な税収であることは確かである。なんせ中毒性があって需要の価格弾力性が著しく低いもんだから税額を上げても(たばこの売上げが減少しないので)税収が減らない。増税するときも世界的な嫌煙運動の盛り上がりの中で世論に反対の声が少ない(喫煙者は当然反対だが、しかしそう主張することは何となくためらわれる雰囲気がある。副流煙の問題や一部の不心得な歩きたばこする人、そして医療費の問題等を認識しているから)。むしろ世論としては増税に賛成であろう。地方自治体にも金が落ちるので、これはおいしい。
国税庁によれば、たばこ税のうちたばこ特別税国債整理基金特別会計に直入されている。つまりまるまる国債の償還に当てられているのだ。いわゆる国鉄の借金返済のための特別税である。旧国鉄はご存じのとおり莫大な借金を背負っており、分割民営化の際に債務を国鉄清算事業団に移し処理することとした。そして国鉄清算事業団の「清算」に当たり、その債務を国が引き継いだのである。その際、国鉄債務返済のために「たばこ特別税」が活用された。
これ、たばこ税でなく一般財源で処理しようとしたら、もっと世論は反対しただろうし、国会でも紛糾しただろう。なんせ旧国鉄の放漫経営(及び「我田引鉄」してきた政治家、結果的に国鉄を制御できなかった官僚)のツケを所得税や消費税で払うということになるのだから。しかしながら借金が現にある以上、返済をしなければいけないことは確かであり、「国有」鉄道の借金なんだから最終的には国が責任を持たなければならないと思う。
世論は「たばこ税だから」国鉄の借金返しに対する税金投入及び増税に賛成した。
さて、ちょっと極端に考えてみる。健康保険財政を支えているのは保険料と税金である。喫煙が健康保険財政に悪影響を与えているとして、もし国内全面禁煙法が成立したら、まぁ今まで吸っていた人は不健康だから当面健康保険を圧迫するが、最終的にはたばこのせいで健康保険財政が悪化すると言うことはなくなる。いいことだ。
しかし、禁煙法を成立させるということは、国鉄債務償還のための税源をどこか他に、おそらくは一般財源に求めるしかなくなる。健康保険財政は健全化しても、全般的に財政を逼迫させるのである。
そう考えると、今のたばこ税を使った国鉄債務償還スキームというのは、実はたばこの害悪を通じて健康保険財政(つまりより一般的な税金)から国鉄債務償還にお金を回すスキームなのではないか。つまりたばこを吸うことによって健康保険財政を悪化させるが、しかしその分国鉄債務償還財源ができる(喫煙者の立場から言うと、健康保険財政からお金をもらってたばこを吸っているのと同じ。吸ったたばこにかかった税金は借金返済へ回っていく)。
これは巧妙である。たばこ税増税にはなかなか表だって反対できない(いやJTなんか堂々と反対してるけど)。たばこは害悪なんだから、国鉄債務償還なんて筋の悪いものに使われても喫煙者は文句言うなってことだ。だからそういう筋の悪い増税話はたばこ税に押しつけておけば世論も納得、国会も納得。その場は丸く収まる。しかしその後健康保険財政が圧迫されるのだ。課税対象と課税目的と、実質的な負担者が異なることによって、スムーズに増税できる。
本気でたばこの消費量を減らそうと思ったら、健康問題だけを取り上げていればいいのではなく、国鉄債務償還の心配をしなければならない。世の中複雑である。
まぁ上記議論は、たばこ税の額とたばこがどの程度健康保険財政を圧迫しているかの比較をしていないので空論だが、そういう考え方もありうるなぁ、ということをたばこを吸いながら考えた昼下がりであった。
なお念のために申し添えておけば、たばこ税はもう少し増税してもいいと思うし、ポイ捨て歩きたばこ等一部喫煙者のマナーの悪さには忸怩たる思いである。
なお上記はgoogleで「たばこ税 国鉄」で最上位に来たhttp://itoufp.hp.infoseek.co.jp/mm000175.htmlを参考にした。