そもそも「官庁訪問」って何?

国家公務員採用Ⅰ種試験は、既に一次試験の合格発表も終わり、受験者は二次試験に向けて勉強していることと思う(人事院採用情報ページ参照)。そして二次試験の合格発表後に、官庁訪問が開始されることになる。
ところで、国家公務員採用プロセスの中核たる官庁訪問については既に過去の日記で若干書いたが、官庁訪問が公務員採用においてどのような位置づけにあるのかは書いていなかったような気がする。
国家公務員には、そもそも国家公務員試験に合格しなければなることができない。しかし、試験に通ったからといって国家公務員になれるわけではない。国家公務員試験に合格すると、「合格者名簿」みたいなものに名前が記載され、各省庁は必要なだけその名簿に名前のある人間を採用する、という流れになる。昨今「人物重視」という流れで合格者数が増大していることから、名簿に登載されても採用されない受験者は増加しているのではないだろうか。
官庁訪問は、今年に限って言うならば、「合格者名簿」記載者の中から各省庁が適性等を見て、採用する人間を決めるプロセスだ。同時に受験者が各省庁を見極めるプロセスでもある。受験者は各省庁を見て回る。各省庁の職員と話をし、「この役所は俺の求めているところと違う」とか「以前は興味がなかったけど話してみると面白い」といった発見があったりする。役所の側も「この学生はうちの気風にあっているか」とか「キャリアとして十分なコミュニケーション能力があるか」といったことを見ていく。
当然のことながら、優秀な学生はどこの役所でも欲しいと思う。よって、毎年外務・財務・経産・総務(自治)・警察等で奪い合いをする学生が何人かいる。いかに我が省の仕事がやりがいがあるかみたいなことをこんこんと説いてみたり。あるいは内々定解禁日(今年は7月2日)までに抜け駆け内々定を出してみたり。まさに「駆け引き」が行われる。
学生は各省庁を回っているので、たとえある役所がこの学生を絶対取りたいと思っていても、他の役所に流れてしまうことがある。だから、内々定を出すまでの段階で、内々定予定者数より多い人数を「囲い込み」しておく。「君の評価は高いよ」とか言って。そしてある程度確実に取れそうな人数が固まったところで、「大虐殺」が行われることがある。いきなり「はいさようなら」するのだ。こうなると学生にとってはとんでもないことで、その役所に行きたいと思い他の役所を切ってはせ参じているのに自分が切られてしまう。他の役所を既に切ってしまっているので、その時点で公務員就職活動はジ・エンドだ(いやもちろん、あまり人気のない役所に回るという手があるけど)。毎年どこかの役所が「大虐殺」を行って、話題になる。
さて、「今年に限って言うならば」というのは、官庁訪問の位置づけが昨年までとは微妙に変わっているからだ。これまでは、最終合格発表前から、数年前までは一次試験日の翌日から官庁訪問が行われていた。となると、誰が公務員試験に通るか分からない状況で学生を絞り込んでいかなければならい。当然、試験に落ちる人間が何人か出ることを考えて、より多めに「囲い込み」しておかなければならない。「大虐殺」の規模も大きい。この点だけ見ても合格発表を早めた意義はあるとおもう。
「大虐殺」の可能性がある以上、学生としては「本当にこの役所は私を採る気があるのかどうか」ということを早めに見極めなければならない。ただこれはなかなか難しい。人事担当課の担当官は百戦錬磨だ。そうそう見極められるものではない。とするとどう判断するかといえば、「誰に会ったか」というのが一つの基準になる。優秀な学生(役所が採りたいと思っている学生)には、なるべく高いランクの職員を引き合わせ、話をさせる(高いといってもせいぜい企画官(課室長の一つ下)ぐらいだろうが)。そりゃ入りたてのぺーぺーが話をするよりも偉い人の話の方が面白いし、ためになるし、より「その役所へ行きたい」という気にさせるだろう。偉い人は忙しいので、多くの学生に会うことはできず、必然的に優秀な学生に絞り込んで会わせることになる。
というわけでいつまでも係長や若い補佐にしか会わせてくれないような役所は、その学生をあまり高く評価していない、ということになる。年次の微妙なニュアンスを読んで行く能力が学生に求められている。
(なお、補佐には若手から管理職直前まで幅広い年次があるので、名刺をもらい、さりげなく入省年次を確認しておくとよいですよ)