民 主 党 必 死 だ な、という話

今回、民主党の対応は非常に合理的で、落ち着いたものだった(と過去形で書くわけにはいかないか。まだ三人が無事に帰ってくるかどうか予断を許さない状況だし。「今のところは」、としておく)。党としては、テロに屈する形での自衛隊撤退は行わない、しかし根本的に自衛隊派遣には反対している、という大変潔い態度表明を行った。金曜日、衆議院厚生労働委員会で小泉総理を迎えての年金審議が予定されていたが、民主党は非常時であるので日程については柔軟に対応する旨を表明し、場合によっては金曜日の審議を取りやめてもよいと考えていたようである。率直に言って、野党第一党、政権を狙う党という立場を踏まえたすばらしい態度だと思う。小泉総理はそれを受け、しかし予定どおり審議を行うと決断し、そのとおり審議が行われた。民主党株は上がったかに見えた。
ところが、である。その厚生労働委員会での審議における民主党の質問がよくない。冒頭菅代表が質問に立ち、今般の事態を受けての政府の対応を問うた。その冒頭発言は以下のとおり。(衆議院TVのビデオライブラリでその様子が確認できる。速記録は月曜日以降に上がってくるはず。)

こういった問題が起きましたので、実は今回の審議も、場合によっては総理がお忙しいのではないか。そういった中で危機管理のために必要であれば、審議の延期などの申し出が与党からあれば我が党は柔軟に対応しようと用意をいたしておりましたけれども、予定どおりやっていただきたいということでありますので、予定どおりこの会が開かれたところであります。

そのとおりだ。民主党いい対応をした。すばらしい。そして菅代表は今回の事態に対する政府の姿勢を聞き、人質救出を強く求め、機会を改めて小泉総理の責任を問う姿勢を明らかにした。
次に枝野幸男議員が質問に立った。

代表からも申し上げましたが、年金の話は大変重要でありますし、またこの年金の問題は、総理と私どもでは大きく立場の違う問題でございます。この人質問題が特に期限の切られている話として今直面をしておられる。そして国民の命を守るということについての最高責任者としての総理は大変厳しい中で今情報収集や判断を迫られていると、いうことでございましたので、今日の年金のこの審議を、もちろんこうした緊急事態ですから、全体としての審議が遅れることのないような柔軟な対応も含めて、とりあえず、数日、まさに政治休戦をすべきではないかという風にご提起をさせていただいてまいりました。いや、全体としての日程が後ろにずれないように柔軟な対応をすると、これだけ特別の事態ですから、そういうことも添えて申し上げさせていただいたつもりでございます。

総理のその重い責任を、我々野党の立場からもまさにこの危機にしっかりと対応していくためには、最大限の協力をしたいということでそうしたお申し出をさせていただきました。そういう風に私ども申し上げました。それにも関わらず、かまわないということの回答だったという風に聞いておりますが、本当によろしゅうございますでしょうか。

いま、この国を、一番やらなければならないことは、この三人の方の、救命に対する最高責任者としての総理の陣頭指揮であると私は思います。今申し上げましたとおり、私どもは、全体としての審議日程が遅れることがないような柔軟な対応を含めて、含めて、この今の状況を、とりあえず乗り越えると、いうことに集中をしていただいたらいいんじゃないかと申し上げましたが、本当に審議に入ってよろしゅうございますか。

もうね、台無し。「私どもは柔軟な対応を提起した・申し上げた・申し出た・申し上げた・申し上げた」と、ひたすら「民主党は譲った民主党は譲った、今回の審議入りは小泉総理の判断であって、民主党が審議入りを強要したわけではない」ということばかりを強調するその言動は、潔いもなにもない。
テロに対抗するには、もちろん断固としてテロリストの要求をはねつけることが第一だが、日常生活を淡々と行うことも重要だ。だから911のあと、例えば大リーグは早急に試合を再開しようとしたし、F1アメリカグランプリも予定どおり行われた。スポーツとは違うけれども、小泉総理の決断も、その点を踏まえたものだろう。
にもかかわらず枝野議員は「柔軟な対応を申し入れた」を繰り返し、総理に「本当によろしゅうございますか本当によろしゅうございますか」と繰り返し聞く。まるで総理が年金審議を受け入れたことを批判するがごとく。まるで「もし審議中重大事が起きて、総理の対応が遅れて人命が失われても、それは総理の責任だよ」と強調するがごとく。
審議のために総理の対応が遅れ、仮にそのせいで重大な結果を引き起こしたとしても、それが総理の責任であるのは、枝野議員が言わなくとも当然のことなのに。菅代表の発言だけで十分、「民主党が今回の事件を使って小泉総理を束縛し、政局にしようとしたわけではない」と納得できるのに。むしろ「民主党は危機にも適切に対応できる、政権を担いうる党」というアピールができたのに。せっかく小泉総理が予定を淡々と行うことを決断したにも関わらず、その大切な審議時間を民主党の立場を防衛するために使うこの態度。
菅代表の発言だけにとどめておけば、「潔い」として評価が上がったと思う。蛇足が非常に残念だ。