小川一水「第六大陸」(ハヤカワ文庫JA)全2巻(若干ネタバレあり)

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読了。最近の私はプラネテスのマンガ・アニメ、星を継ぐものシリーズ、そして第六大陸と宇宙ものに傾倒している。これも人から紹介を受けてamazonでさっくり買った。
表紙裏の作者略歴を見て、「しまった!これは失敗した!」と思った。この作者、「こちら郵政省特配課」という小説を昔書いていたのだが、これがまたつまらなかったという記憶しかない。それ以外に全く覚えていない。第六大陸のあとがきを見るまで、「特配課」がSFだということも思い出せなかった。時間を捨てたようなものだった、ような気がする。
ってなわけで非常に期待せずに読み始めた。表紙が幸村誠だけにもったいないなぁとか作者に非常に失礼なことを考えながら。
結論から言えば、面白くはあったが、「社会派宇宙開発もの」としては「夏のロケット」にはかなわない、ということだ。
二つ要因がある。一つは登場人物の性格設定。主人公こそ20代中盤から成長して30代になるサラリーマンであるが、もう一人の主人公的人物は登場時点で12,3歳、成長しても20代前半だ。年下が活躍するとなんかむかつく(笑)。しかも大金持ちの孫娘で、天才と来た。感情移入のしようがない。ジュブナイルと考えればまぁ致命的ではないけど。
もう一つは、作品全体を見て、どうも盛り上がりに欠けることだ。これはさらに二つの要因に分解できよう。
一つは各種設定あるいは科学技術の解説部分が、ドラマ部分とうまく絡み合っていないということ。解説は解説、ドラマはドラマになってしまって、解説部分が浮いている感がある(あとから思い出してみれば、「特配課」はこれがさらにひどかったような記憶がある)。ドラマが盛り上がっても、解説部分が出てくるととたんにさめてしまうのだ。月を舞台に建築を行うゼネコンの話という特殊性があるからある程度はしょうがないような気がするが、しかし宇宙開発小説なんてのは特徴がなければ意味がないので、やはり解説部分の「浮き」は残念である。
盛り上がりに欠ける第二の要因は、全2巻という長くない作品であるにもかかわらず、オムニバス的にストーリーが展開していくからだと思う。ある問題が発生し、それを解決し、そしたらまた別の問題が発生し…というように、物語がモジュール化してしまっていて、重層的でない。ぶつ切りになっている印象を受けるのだ。
一応通奏低音として「親と子の確執」が設定されているのだが、これも物語全体を統合するには力が弱い。
というようなわけで、私はいまいちこうずぶっと物語世界に入っていけなかったのだ。ちょいと残念。
さて、それはそれとして気になる点が一点。この小説はJAXAやら三菱重工やら石播やらコマツやらホンダやら実在の固有名詞がいっぱい入っていて楽しいのだが、なぜかセメント会社だけ「山口の大手企業」みたいな書き方でごまかされている。宇部興産とか太平洋セメントとかって書けなかったのだろうか。何でだろう。気になる。