千葉国独立から一ヶ月…緊急現地ルポ

【チバシティ(千葉国首都)・東京(日本国首都)30日AP】1月1日に独立を宣言してから日本国と交戦状態にあった千葉国は、今、奇妙な静寂に包まれている。千葉国首脳は20日以降公の場に姿を見せておらず、国民の間には暗殺説が流れるなど閉塞感が漂っている。独立から一ヶ月目の様子を、現地で取材した。


◆深刻な食糧難
「白いパンが食べたい。カブやピーナッツにしょうゆをかけて食べる生活はもうたくさん」…市川特別行政区に住む田中麗子さん(28歳、仮名)はこう語る。独立直後に始まった日本国政府による経済封鎖のため、千葉国民への穀物供給はほぼ絶たれた形になっている。頼みの漁業も、海上封鎖により漁船が出漁できない状況が続く。国民に配給されるのは野菜のほか、備蓄してあったピーナッツとしょうゆだけだ。このため国民の間では吹き出物対策が最大の関心事となっている。しかし、吹き出物対策に有効なクレアラシルも国連の人道援助に頼らざるを得ず、女性子供に優先して配給されているものの、到底必要数には足りていない。
◆頼みの綱、早くも切れる
田中さんは続けてこう語る。「独立宣言中、国民へのディズニーランド年間パスポート無料配布が実現できていない。これでは何のための独立だったのか」。千葉国は独立当初、成田空港や東関東自動車道、東京湾岸の工業地帯と並んで、東京ディズニーランドを第一級接収施設に指定。観光客が落とす日本円を重要な外貨獲得手段と位置づけていた。しかし、「千葉」へ編入された場合のイメージダウンをおそれたオリエンタルランドは、急遽ディズニーリゾート警備隊を編成、頑強に抵抗した。習志野駐屯地の旧第一空挺団を主力とする千葉国防軍ディズニーリゾート接収部隊がディズニーランド部分をようやく占領できたのは10日のことだった。
当日、千葉国観光相が「千葉ディズニーランド」への改名を高らかに宣言したものの、その後ディズニーシーに自衛隊が投入され、18日にはディズニーランド制圧作戦「マイケルジャクソンのキャプテンEO」が開始された。ディズニーリゾート接収部隊は、シンデレラ城を確保するのが精一杯。外貨獲得の夢は消えた。
成田空港も期待にそぐわない。陸上封鎖により千葉国と日本の間は行き来できず、しかもディズニーランドも閉園状態では、「成田空港には存在意義がない。誰も千葉それ自体を目当てに行こうとは思わない。海外から新勝寺観光に行きたいと思う人がどれぐらいいるのか」(欧州系航空会社幹部)。日本国政府は、従来から「お荷物」となっていた成田空港の破棄、および東京湾13号埋め立て地沖合に滑走路5本を備える新空港を建設することを早くも閣議決定した。「東京都心からのアクセスが飛躍的に改善し、国際線と国内線を一体として処理でき、便数も増える。願ったりかなったりだ」(日本国国土交通省幹部)と、喜びを隠せない。
日本国政府は平静、関係自治体は熱狂
千葉国独立に対し、日本国政府はディズニーランド制圧作戦と幕張地区制圧作戦のほかには実力行使を控えている。その制圧作戦も、ディズニー本社やIBMの意向を受けた米国の圧力によってやむなく実行したとの説が永田町では有力だ。自民党内部には「強硬手段に訴えてでも早期に鎮圧すべき」との声もあるが、大半は慎重だ。「自衛隊武力行使は極力避けるべき」(参院自民党幹部)との声のほか、「この際封鎖によって千葉の経済力を徹底的にそぐほうが日本のため」という意見も見られる。これは、千葉の切り捨てによってほかの地域が恩恵を受けるからだ。
千葉国独立と経済封鎖により、今まで千葉が担ってきた地位を代替しようと、日本の各地方自治体は躍起になっている。銚子港での水揚げが止まったことで、八戸・釧路・清水といった漁港を抱える自治体は「喜ばしいこと。この際兵站拠点にもなっている銚子港の機能を徹底的にたたくのがいいのではないか」(青森県関係者)と手放しで歓迎している。
千葉から東京への野菜出荷が止まったことで、東京での生鮮食料品価格も上昇。山梨・茨城といった周辺野菜供給県は思わぬ「特需」に沸いている。中部国際空港関西国際空港周辺自治体も、東京新空港完成までの間国際線の便数を大幅に増やせることから、基本的には今回の「騒動」を歓迎している。
伝統的に千葉と対立していた埼玉県では、県庁が「埼玉救国義勇軍」の募集を始めた。「完膚無きまでに千葉を叩き、埼玉の優位性を確立する。もう千葉人にダサイタマとは言わせない。将来的には千葉を埼玉の植民地とするつもり」(県庁幹部)と、鼻息も荒い。
◆「境界線」付近は観光名所に
日本と千葉国の「境界線」付近は、自衛隊や機動隊が出動し完全に封鎖している。普段は見ることができない実戦配備の自衛隊とあって、首都圏はもとより全国各地から観光客が押し寄せ、ちょっとした観光地状態となっている。
江戸川にかかる水戸街道葛飾橋(東京都葛飾区)周辺では、週末ともなると露店がたちならび、お祭り状態だ。地元で親子二代50年以上にわたってもんじゃ焼きの店を営む伊藤五郎さん(62歳、仮名)は「こんなに人がいるなんて金町始まって以来のことじゃないか。千葉国さまさまだ」と喜ぶ。店は観光客らで終日ごった返し、1月の売り上げは前年同月に比べ倍以上になったという。「不測の事態があり得る。絶対に近づかないように」との政府広報も今のところ効果がない。
◆首脳陣雲隠れ…暗殺説も
華々しく独立宣言を発表した千葉国臨時大統領は、20日憲法制定議会選挙実施の延期発表以降、公の場に姿を現していない。それまでは「立てよ国民!国民よ立て!」と毎日のように国営千葉テレビを通じて演説していただけに、国民の間には「自分だけ亡命した」「既に日本国政府により暗殺された」「坊やだからさ」との噂がまことしやかに流れている。
今回取材した千葉国民は「独立なんてしなければよかった」「旧千葉県庁の独断専行」といった千葉国政府への不信感を口々に述べた。松戸市では、どさくさに紛れて東京都松戸区としての編入を目指すレジスタンスの地下ネットワークが構築されつつあるとの説もある。国民の高まる不満、沈黙する千葉国政府、静観する日本国政府…今や千葉国は奇妙な静寂に包まれている。


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