総理は被災地に行くべきか。

これは本当に難しい。以下政治に関心を持つ一市民としてのつぶやき。
まず大前提として、総理は新潟ばかりを向いていられない、ということを確認しておく必要がある(新潟中越地震の被災者におかれては憤慨されるかもしれないが、ご容赦を)。なんせ総理だから、日本の全ての問題に目を向けなければならない。台風もあった。月曜日には東シナ海ガス田問題に関する日中事務レベル協議があった。防衛大綱の見直しもあれば、米軍再編の話もある。郵政公社の話もある。北朝鮮もある。来年度予算編成も佳境だ。「三位一体の改革」だってある。そのどれもが震災被害者救出・支援よりも時間的緊急性は少ないと考えられそうなものだが、しかし物事には段取りとかタイミングというものがあって、震災に全力を傾けていると他のことがおろそかになるかもしれない。
ところが、このような状況下にも関わらず、いやこのような状況下だからこそ総理は新潟の方を向く必要がある。依然小泉後継が見えてこない状況ではあるが、党内に確固たる基盤を持たない以上、小泉総理は世論の支持を頼りにしてきた。ここで「天気が悪くてヘリが飛ばないから新潟には行けません」なんてことを言ったら、一気に世論が小泉不支持へ傾く可能性があった(「被災者は氷雨の中耐えているのに、天気が悪いから行かないとは何事だ!」)。地震に関する国会での質疑が予定されていたので、もし今日新潟に行かなかったら野党各党から集中砲火を食らったであろうこと請け合いだ。それを受けて、今晩のテレビや明日の新聞は一斉に小泉叩きを始めたことだろう。前述の各種問題を小泉総理のイニシアチブのもと解決していくためには支持率を保つ必要があったし、そのためには現時点で新潟へ行く必要があった。
では総理が新潟を視察したら、新潟の状況がよくなるのか。これは微妙なところだ。確かに、百聞は一見にしかずの効果はある。テレビや自衛隊ヘリからの電送映像を見るより、各省が上げてくる報告を読むより被害の甚大さを実感できる。その実感は、今後の補正予算の編成にも影響を与えるだろう。財務省あたりは予算の節約分等で補正を乗り切ろうと考えているだろうが、総理のイニシアチブにより国債増発によって大補正を組もうという気になるかもしれない。
しかし一方、総理が現地入りすると、確実に当座の救出活動・被災者支援活動は悪影響を受ける。新潟県知事以下各市町村長・役人の、貴重な貴重な時間を割くことになる。警察だって総理の警備に人手を割かなければならない。ただでさえマスコミが傍若無人な行いをしているとの話もある状況で、さらに東京からマスコミの大集団を連れて行くことになる。避難所へ行けばその時点での食糧配布活動等はストップするだろうし、大集団の出現によってただでさえ落ち着けない避難所の居心地がますます悪くなる。
というわけで、視察すればいいという問題でもなかったし、視察すべきでないという問題でもなかった。行けば「パフォーマンス」と批判され、行かなければ「冷たい」と批判される。ちょっと微妙な言い方になるが、全国的な世論の支持を確保するために、新潟の被災者に迷惑をかける必要があった、と私は考える(迷惑といっても長期的なメリットになるかもしれないが)。世論の支持を得ようとすることは政治家としてある程度当然のことだ。小泉総理ばかりを責めるわけにはいかない。90年代から引き続く不祥事と不況によって、政治・政府への全般的な信頼感を損ねてしまったその他の政治家や官僚にも責任がある。ここぞとばかりに叩こうと手ぐすね引いているマスコミもある。さらに、「天災をなくすために必要なのは政権交代」などと地震を政争の具に使おうとする最大野党の有力者がいる状況においては、総理としてもギリギリの選択だったのだろうと思う。
いずれにせよ、新潟県中越地震被災者の皆さんにはもう少し辛抱していただきたいとお願いします。ボランティアの皆さん、頭が下がります。現地の県庁市町村役場警察消防自衛隊海上保安庁の公務員各位、がんばれ。住民の幸せはあなた方の双肩にかかっている。中央官庁もお手伝いするから。
(なお、野党党首や有力者の被災地訪問は、前述のデメリットはあってもメリットは少ないことを付記しておく。彼らが補正予算編成や当座の救出・支援活動に対して与えられる影響は、極めて小さい。また、今日、衆議院本会議で質問に立った民主党会派の白い服を着たおばさんは、総理が視察に行かなければ批判しただろうし、行ったら行ったで「時間が短くてそんなことでは被害が把握できるのかなぁ」と現に批判したし、もし総理が現場に長らくいたら「現地の人に迷惑をかけて何を考えているのか」と批判したことだろうなぁ、とおもった。)