かくて前例が作られる

id:kanryo:20040717#p1のコメント欄。

# roi_danton 『kanryoさん、苦肉の策が前例になっては困ります。内閣法制局も信用ならないとしたら、日本の法律は誰が担保するのでしょうか。(後略)

いやもうこれはご指摘のとおり。ご指摘のとおりなんだけど前例になる可能性は大いにあります(そもそもこういう形の正誤表修正って前例があるんですかね。調べてないから分からないけど)。
もちろん立案当初から「間違えてもいいや」と考えるわけではないですよ。今後似たような間違いがあった場合、そして本来の筋を通してもう一度国会に出して修正しようとした場合、必ず「んじゃあなんで年金法案の時はそうしなかったんだ!」という批判が出、また国会が止まります。国会を止めないためには今後とも正誤表方式でやるしかない。つまり今回の件を前例として今後起こりうる事態に対処する、というのがもっともあり得る。
そもそも今回なぜ正誤表なんて話になったかというと、いやもちろん役人が間違えたのが一番まずいんですが、年金が参院選の争点の一つに挙げられるほど超対決法案だったから(個人的には年金改革の中身が問われたとは到底思えませんが)。そして民主党がこの間違いに対し「再改正法案を出せ。出したら全力でつぶしにかかるけどね」という態度を明確にしているから。年金改革の中身ではなく揚げ足取りをしようとしているからです。揚げ足取りをされることが分かっているから自民党も再改正法案提出なんて死んでもやりたくない。
責任転嫁をしているようで恐縮ですが、「条ずれ号ずれチョンボ」なんていう枝葉末節にこだわる結果、ますます悪い状況(正誤表=行政府による法改正なんて苦肉の策を前例にしてしまう)に陥っています。立法府がきちんと立法に責任を持とうとするならば、今回の形式的なミスは(責任者吊し上げはするにしても)粛々と片づけるべきで、年金改革の中身とは分けて考えるべきだと思います。
…そう単純にはいかないのが政治の世界だと思いますが。
ついでにご批判を承知で申し上げるならば、衆参あわせてあれだけの審議時間をとって審議したのに、国会議員が誰一人として審議中にあのチョンボに気づかなかったのはどういうことだろう、と思ったり*1。議員が条文一つ一つを読む必要はないと思いますが、議員スタッフも含め誰もちゃんと法案を読んでいないんですよ。衆参の調査室も気づいてなかった可能性が高いし。
役人のミスを批判するのはそれはそれとして重要なのですが、人間のやることですから、ミスを絶対になくすことはできない。「ミスを絶対になくせ」という立場は、必然的に「官僚の無謬性」なんて神話に繋がります。それがどんな弊害を引き起こしてきたかここで指摘するまでもないでしょう。内閣法制局も信用ならないなら、議員・両院法制局・調査室・その他スタッフ全部をひっくるめた国会側の法律チェック体制を強化する方が先決なのでは。これではいつまでたっても「脱官僚」なんてことにはなりませんがな。

*1:気づいていて公表のタイミングを窺っていた、という可能性は高いような気がする。だとすれば党利党略のために法律の正確性を損ねるという話だ、と書いていて、そうだったと考えるのが素直だなぁと自分一人で納得。なお朝日新聞によれば指摘したのは民主党浅尾慶一郎参院議員とのこと