今回の衆議院総選挙の民主党躍進に関する仮説「『マニフェスト選挙』ではない」

夕べ某友人とチャットしていてまとまった私の見解。感謝>某。民主党が意外に躍進したのは、やはりマニフェスト効果なのか、という問題から議論はスタートした。世間ではマニフェスト選挙、すなわちマニフェストを各党が掲げて政権選択を争った、と喧しい。
私は、マニフェストは一定の効果があったものの、マニフェストという形式にまとめたこと自体ではなく、民主党イデオロギー的イメージの変化をもたらした、ということだと思う。マニフェストの効果は、(1)いかにも民主党が政権を担いうる党であるとの印象を直接的に与える、(2)「公約」に再注目を集める効果を果たした、(3)(2)が(1)を補強した、というシンボル操作であったと考える。
マニフェストは、私が思うに従来の「選挙公約」と変わらない。だから、「マニフェスト選挙」というのはどうも違和感がある。ところで、従来の選挙公約は、度重なる繰り返しゲームの結果、もはや一部利益団体以外の有権者に全くアピールしなくなっていた。55年体制下、旧社会党の公約が全く実現できなかったことを通じて。あるいは93年以降の小党乱立時代を経て。そこで、今回はマニフェストと、名前を変えて出してみた。「公約」を掲げて選挙を行っても、「公約」は守られないものだと有権者が考えている以上、有権者は公約に見向きもしない。「マニフェスト」なら、なんか期待できそうな気がする。私はマニフェストにはこのシンボル操作以外の意味はないと思う。
マニフェストの効果はどうだったか。あたかも民主党がすぐにでも政権の座について国政を運営できるような印象を与えた。民主党はそのような雰囲気を意図して作り上げ、「政権選択」を国民に迫れるまでになった。しかし、それは「マニフェスト」という形を取ったからだろうか。否、マニフェストの中身、すなわち政策によるものではなかろうか(もっとも、政策も詳細に検討されることはなく、政策の受ける印象のことである)。そして、マニフェストによって「公約」に再度焦点を当て、政策の与えるイメージによって、民主党は旧社会党とは違う、選択肢になりうる党だとの期待を形成することに成功したからではないか。
マニフェスト」が単なる民主党のシンボル操作である以上、自民党としては受けるわけには行かない。自民党こそが唯一の現実的選択肢であるからだ。よって自民党マニフェストという単語を用いず、「政権公約」と言ってみたりする。
民主党の政策がすばらしいと言っているわけではない(すばらしいものもあるような気がするが)。例えば55年体制終盤のイデオロギー分布について、以下のように述べることができる。単純化する。公明党の支持層については常に独特であるので括弧書きした。
共産党---------社民党-------------------------------------(公明党)---------自民党
これが、今回の選挙では、政策の実際はともかく、有権者が受ける印象はこうなったのではなかろうか。
共産党---社民党-------------------------------民主党------------------------(公)自保
従来の野党第一党である旧社会党は、あまりにもイデオロギーが左過ぎて国民の広範な支持を得られなかった。イデオロギー対立が激しすぎる場合、現実的な政策議論ができない。例えば自民党と対立する社会党が「自衛隊違憲」と主張してしまっている以上、実効的な外交・安全保障政策を議論することが不可能であった。この場合、一部の熱心な政党支持者以外の選択肢は、消極的に自民党を選ぶか、自民に入れるのもなんだから社会党に入れてみるかと思うか、さもなければ棄権するかである。ところが今回は、民主党の政策(それが「マニフェスト」であれ、「公約」であれ)が意外なほど現実的との印象を与えるものになったため、選択肢になり得たのだ。
民主党のイメージの中道化については、民由合併の効果もあるかもしれない。すなわち自民より右であった自由党と左の民主党が合併したため、足して2で割って政策が中道寄りになった、あるいは実際の政策はともかく有権者の受ける印象が中道寄りになった、という意味である。
マニフェストというシンボル操作によって、民主党は中道化との印象を醸し出すことに成功し、また実際政策もそんなに左寄りではなかったため、その結果意外なほど広範な支持を集めることに成功したというのが、現段階の私の仮説である。ここにおいてマニフェストという形式は、繰り返すが、「公約」に再度焦点を当てたということ以外の意味はないと考える。
シンボル操作こそ政治じゃないか、といわれればそれまでなんだけど。


さて、民主躍進議席はどこから出たか。自民党を食ったと言うよりも、共産社民諸派議席を食ったからである。これはどう解釈するか。まさに「政権選択」イメージ形成のたまものであろう。すなわち民主党以外は選択肢になり得ないという主張の成果である。従来自民党に入れるのも面白くないから、という理由で社民・共産に流れていた票が流れたのではないか。まぁ詳細には有権者の投票行動を分析しないと分からないけど。