質問通告の謎

このエントリのコメント欄中、とおりすがりさんのご指摘に関連して。
世の中には国会というところがあり、そこでは日々質疑が行われ、で、答弁作成に役人どもは忙殺されるわけです。通告や役人による答弁準備の必要性については、branchさんとこを参照。
実のところネットを検索していても、「質疑の通告は二日前までに」というルールについては、1999年に与野党申し合わせで決められているということぐらいしか分かりませんでした。当時の国会会議録から。

○富田委員 公明党改革クラブ富田茂之でございます。

与党として初の質問ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

システムが変わりまして、二日前のお昼までに質問通告しろということで、金曜日のお昼までに質問通告させていただきました。

最初に、九月二十一日に発生した台湾大地震、これで全壊しました台中にあります日本人学校の再建支援についてお尋ねしたいということで質問通告をいたしました。そうしましたら、金曜日の夜、大臣が閣議後の記者会見で、台中日本人学校の再建について文部省として積極的に取り組んでいくという発言をされていたというのを夕刊で見まして、これを見てからまた質問通告すればよかったなというふうに思ったのですが、それも含めまして、台中日本人学校の再建支援についてまず質問をさせていただきたいと思います。

ここに、質疑通告の問題点が如実に表れているんです。
仮に「二日前までに質疑通告」かつ「それ以外は質疑できない」すると、実際の質疑の前日に起きた事件については聞けないわけです。前日に大事件が起きていながら、翌日の国会でなにも聞けないというのは、これはもう国民感情からしておかしい話であって、変なルールということになります。
また、国会は連日開かれており、盛り上がっているときの予算委は連日、各委員会も週に二三日ほどの定例日が設けられて審議が行われます。連日審議がある場合は、質問だって前日の議論を踏まえて作成する必要があり、二日前通告は困難です。そもそも翌日に委員会を開催するかどうかすら与野党の協議事項ですから(審議拒否戦術があり得る)、そういう場合も二日前通告は無理です。
というわけで、「絶対に」二日前ではなく、「原則」二日前までに、となるわけですが、何が「例外」になるのかは個々の議員先生に委ねられていると考えられ、いろいろ「例外」が出てくる。
二日前までに通告してもらえれば、余裕を持って質問取りに行くことができ、余裕を持って答弁を作成できるわけですが、ここで議員先生に「いや質問は二日前までにですから」なんて言っても通るわけがなく、議員先生方からは「国会軽視だ」と言われ、特に野党からは「政府けしからん」ということで審議拒否の可能性もあります。与党幹部だけでなく、国民からも指弾されることとなるでしょう。というわけで、「二日前ルール」は、誕生とともに形骸化が約束されていたのでありました。
……ただ、もちろん二日前に通告しようが前日に通告しようが変わらない質問もあるわけで(時事性がないとか)、そういうものは二日前にやっていただいて、もし追加があれば前日に、という運用をしていただけると、申し合わせの趣旨に鑑み大変ありがたいのです。しかし、現状はなし崩し的に前日通告です(もちろん、少数ながら二日前以前に通告してくれる先生もいらっしゃいます)。


…というような霞が関の切なる願いを踏みにじってくれるのが、「今必要なのは政権交代ではないか」でおなじみの元民主党代表殿であらせられます。

民主党の前代表が、全省庁を敵に回して....。

月曜日の予算委員会の質問通告を土曜日の11時にやったらしい。質問通告は48時間前にやることになっているのだが、土、日もかまわず48時間と解釈したらしい。役所は、週末をのぞいて48時間ではないかと、特に若手はブチキレている。そこで、内閣参事官室からの命令で、全省庁の全部局は、土曜出勤。

総理大臣の答弁は、11時に質問を取ると、各役所に割り振って、割り振りに文句があれば、一時間以内に喧嘩して、喧嘩が終わると、答弁を書いて、他の役所に関係があれば、そちらと打ち合わせをして、最後に、予算の関係で大蔵省が確認して、全てが三時間以内つまり、2時までに終わらねばならないそうで。菅さんは、いつも質問提出が遅い、役所は、土日出勤して当たり前だと思っているのか、と若手官僚は、ぶつぶつのたもうてました。

(2003年12月5日)

菅直人氏は、こういうことをやらかします。こういうことをやらかしながら、役所の合理化云々言っておられるようで、彼または彼の所属政党が政権を取ったら、さぞすばらしい行政改革をやっていただけるのではないかと期待しております(棒読み)。
本人はどう考えているかというと、

答弁をコントロールしているのは役人で、その結果税金が無駄に使われている

【代表】予算委員会の問題でまだ詳しい事情を聞いていませんが、質問とりのいろいろな様子を何か副大臣会議の指示で各省庁が調査をしているということで若干議論になっていると聞いています。詳細には聞いていないのでコメントをしにくいのですが、もともと予算委員会などで質疑をする場合、ひとつは当然ながら大臣なり副大臣がみずからの責任で答弁をする。みずから必要なことについては判断しているとすれば、それはいいわけです。

民主党が政権党になったら、役人の答弁作成禁止令がでるんでしょうかね。それならそれでかまわないですけど。ちゃんと大臣や総理が責任を取ってくれるのなら。

いまの状態もそうですが、一般にギリギリになると前の夜までかかるとかいろいろ言われますが、私自身の経験からしても今回の場合も、未だに6日にあるかどうかわからないという状況の中で、いくらなんでも4日の今日、こんな質問をしますという通告をするわけにはいかないわけです。つまりまだ6日にあるかどうか決まっていないので、今夜決まってもいくつかの準備がありますからギリギリ明日の夕方になってしまうというのが普通です。

もしそれをきちんとしようと思えばまさに与党が提案したそうですが、きちんと決まってから2日前までに質問通告をするようにというのであれば、少なくとも決まった段階から2日以上先から始めてくれなければ、当然ながら明日から始めますというときに、それでも2日前に質問通告をしろと言っても、まさにタイムマシーンでもない限り無理です。そういう意味で私はきちんとした形で役人に過剰な負担をかけないやり方というのが望ましいと思いますが、それをやるのであればまさにきちんとした委員会運営を与党自身がやる必要があるのではないか

ご指摘のとおり。

実はもうちょっと言うと、官僚の皆さんが徹夜をするときにいろいろなことを言われ、大変だという言い方もあるのですが、私も厚生大臣を経験した際に実感したのですが、本当は逆なんです。個人個人の官僚の皆さんからすれば大変なのですが、逆にいえば100%官僚の答弁を読んでくれる大臣がそろっているのです

ですから答弁を書きたくないのではなくて、本当は役所が答弁を書きたいということです。ですから本当は政府委員を外すことを役所が本来喜ぶべきなのに、是非政府参考人を出してくれとか質問とりにきて、是非質問を詳しく聞いてくれとか言うのです。それはいわゆる表で言われているのとは逆で、すべての質問に対してすべて大臣の答えることをコントロールしたい。コントロールするためにあらかじめ質問を知って、答弁書をつくってそこからはみ出さない答弁をするように大臣をコントロールしたいためにある意味で普通のやり方になっているのです。

これは予算の作り方がボトムアップであるとか、あらゆることに共通していて結局は内閣が物事を判断する必要がない、大臣が物事を判断しない、事務次官以下が判断をして大臣に言わせる。その仕組みのためにこういうことが起きているわけで、何か野党がイジワルをして役人を夜中まで、あるいは土曜・日曜をつぶさせてタクシーで帰らせ、タクシー代やホテル代がいくらかかるなどと言っているのは、本質からすると私の実感では逆だということを申し上げておきたいと思います。

いや答弁作らなくても間違いなく動くのなら答弁なんて作りたくないですよ。ただ、大臣が間違った答弁をしたときに、結局走り回って火消しをしなければいけなくなるのは役人なわけで…。あ、そうか、民主党はその火消しとか調整まで政治でやってくれると言っているのか。それはそれで正しいあり方。
とはいえ、そりゃ世の中に案件がカイワレとHIVしかないのなら、答弁用意しなくても大臣が答えてくれるかもしれません。勉強する時間が取れますから。しかしそうではない。当時の厚生省の抱えている案件は膨大で、とても答弁書なしで全ての案件を答えることは不可能だと思います。
ひとりの大臣が全てを答えようと思ったら、その大臣ひとりで見られる程度に役所の規模を小さくすればよいです。しかし、何十(何百?)もの役所を作り出す「行政改革」をやっていただけるのでしょうか。(なお、役所の数を分割すると、人員やポストの面もさることながら、政府内調整コストが増大します。)
わかっている人が答弁するなら、答弁書を作らなくてもいいし、案件についてご説明する必要もない。これが、役所が政府委員(現在は政府参考人)で答弁したがる理由のひとつです。政府参考人には、通常各省の部長・審議官級以上を登録することができ、彼らは(質問者のお許しがいただけるなら)国会の場で答弁できます。仕事を増やしたがっているのではなくて、仕事を減らしたいから政府参考人答弁をやりたがるのです。
それから土曜日の質問通告は「野党がイジワル」以外の何者でもないように思うのですが違うのですかそうですか。

2003年の副大臣会議で何があったか?

上記は2003年の菅直人民主党代表(当時)の記者会見録でした。そのころ何があったかと言えば…

原口一博 本当に、この問題で私は納得できません。スタンスがやはり違うなと。私たちは民主主義をはぐくもうと思っている。そして、公約の重みはしっかりと、一回言葉に出したことは確認をしなきゃいけないと思っている。総理のそういう姿勢は、これ、資料をごらんになってください。資料の11です。国会答弁のいわゆるレクについて、質問者名と出席大臣、それから全文入手またはレク開始の時間、質問を各省に配付した時刻、これで、まさに閻魔帳みたいなものをつくっているじゃないですか。

今、これほど不況のときに副大臣政務官を置いて、本来は副大臣政務官がこの質問取りに来るんですよ。それを全くやらないで、しかも議員ごとにこうして質問者名を記載して、そして、まさにそれを政治的に利用するかのようなことをやっているのはどういうわけですか。しっかりとした答弁をいただきたいと思います。

内閣官房副長官上野公成) お答えさせていただきますけれども、副大臣会議というのが一昨年の一月六日から発足をしているのは御承知のとおりだと思いますけれども、その中で、質問がなかなか早く出していただけないということで、国家公務員の健康管理、超勤が非常に多いという問題が従来から問題とされております。そして、一昨年の十一月にも一度申し入れをさせていただきまして、これは衆参の議運委員長、それから国対の関係者にもお願いをしたわけでございますけれども、再度また昨年の十月の副大臣会議の中で、やはり国家公務員の健康状態、そして超勤を何とか少なくするということで、今度、実態調査をある程度踏まえて、そして申し入れをさせていただこうということになりまして、副大臣会議で調査をさせていただきました。

そして、副大臣会議の都度に、我々は記者会見できちっと、こういうことをやらせていただくということも十月に申し上げましたし、そして、十二月の十九日に結果が出ましたので、これも発表させていただきましたけれども、しかし、これは目的が国家公務員の勤務状態、健康管理をするということでございますから、そういう観点から、副大臣会議として、国会に対しては、二日前の午前中というのはほとんど守られておりませんから、少なくとも前日の十二時までにお願いできないかということ、一方、役所の方も、余り長い時間をやるということはまずいと思いますので、六時間程度で仕上げる、そういうことであれば夕方の六時までにできるということでございます。

今、この目的以外に全然そういう意図はございませんので、そのことはちゃんと申し上げたいと思っております。

原口一博 では、そうであるのだったらどうして質問者、個人名を調べる必要があるんですか。そして、あなたは党派別にブリーフをしているんじゃないですか。

政務官は今何をやっているんだ、多くの給料をもらって、そして何にもやってないじゃないか。今のこのときだって、地元を回っているのがいるじゃないか。だれが質問を取りに来たんだ。全然違うことをやっておきながら、しかもこうやって質問者名を出して、そしてやっている。

あなたの主張に沿うと、私も国家公務員の人権や健康は大事だと思う。これを見ると、十七時以降の通告がたくさんあるわけです。そうしたら、全部二日前にやればいい。それを政府がお願いをするということで、公式に。いいんですね。(発言する者あり)

内閣官房副長官上野公成) まず……(原口委員「聞いたことだけ」と呼ぶ)いや、今聞かれたので。

個人の名前をなぜ出しておるかということですけれども、これは調査票に、いろいろな省に質問をされますから、同じ議員が。(発言する者あり)

○予算委員長(藤井孝男) 御静粛に願います。

内閣官房副長官上野公成) ですから、それが一回の質問になるわけでございますので、そういうのを整理するという意味でその議員の名前を出しているということはございますけれども。

それから、私がブリーフをしたということでございますけれども、私は、副大臣会議の結果を会見いたしましたけれども、党派のことについては一切触れておりません。

我々の方は、これは国会のことでございますから、政府としてこういう実態があるのでぜひ御配慮をお願いしたい、これは十二月二十四日に与党の国対委員長の先生方にお願いをいたしました。あくまでも結果は国会で判断していただくことだと思っております。

原口一博 それは当たり前の話で、今、個人の名前をつけなきゃいけなかった理由は全く言っていない。総理が国会の答弁を本当に重視するんであれば、やはりしっかりとしたレクも受けてもらって、そして、かみ合った質問と答弁をするべきだ、そのことを指摘して、これはこの委員会だけではなくて、議運や国対でも議論をされているようでございますから、そちらに譲ります。

本日の野党国対委員長会談では、昨日の予算委員会理事会で取り上げられた質問通告の問題が話題になりました。内閣総務官室が各省国会担当部局に宛て国会答弁の作業状況に関わる調査について依頼していたという件です。これは、質問者とか、かかった時間とか、開始時刻とか詳細に調査して集計していました。これは明らかに行政が議員の質問権の侵害になりかねないような行為をしていたということで、たいへんな問題であると思います。さらに、それが夕刊紙に掲載されて、たとえばわが党の代議士の名前とか、どこかの党の党首の名前とか大きく出ていましたが、こういう形で漏れていくのも、これまた問題です。もともと役人が質問取りをするということがあたり前のようになっていますが、本来は政務官副大臣の仕事であるべきで、通告がなくても堂々とした質問に堂々と答えるのが筋です。こういう形で、それが調査をされたり、超過勤務だ労働強化だと言われる材料にされるのは極めて遺憾だと思います。これからは、質問取りに役人が来るようなことがある場合には対応しなくてよいのではないかという声が出るくらい、さきほどの野党国対委員長会談は厳しい空気でした。この問題については議運で協議していただきますが、それぞれ厳しく対処していかなければならないということで腹合わせをさせていただきました。

ということだったそうですよ。私はすっかり忘れておりましたが。
副大臣会議はいくら探してもwebサイトが見つかりませんでした…。

続・公務員宿舎問題

あー、やっぱり宿舎(又は広い意味での公務員の待遇問題)について書くと、私よりもいいとか悪いとかいう話になってしまうのか…と、bewaadさんとこのコメント欄を見て思った次第。いやそこまでいってないか…

現在の官僚批判の根底には「国家権力の分け前を民間エリートにもよこせ」という権力闘争の側面が見えますね(大衆大明神は、単にお怒りなだけですが)。

という西麻布夢彦氏の分析は当たっているような。