ダウンジアンモデルで見る郵政総選挙(下)/やっぱり民主党の位置取りの問題

前回のエントリに対するはてなブックマークでのコメント欄に、こんな声がありました。

rir6 『[★★★]『政党って、ただ票を多く取れば良いんですかねぇ?』』

道義的なことはともかく、議院内閣制をとっている以上、分析の対象としての政党は「政権を取るために、なるべく多くの票=議員を獲得しようと行動する」と仮定するのが合理的です。また、個々の議員のレベルでは、「再選を果たすこと」が彼・彼女の最大の目標であり、「政策の実現」は二の次と仮定します。猿は木から落ちても猿だけど、議員は選挙に落ちればただの人ですから。
さて、まずはじめに申しあげるならば、本件分析は全くデータに依拠していません。どこかの新聞社が世論調査の個票データを公開してくれないかなあ。蒲島センセのアレも公開じゃないし。また、投票行動はこうも単純ではなく、様々な要因が影響することが研究により明らかになっていますが、様々な仮定の下に以下の論考を進めていきます。
さて、今回の選挙は結局のところ最初から最後まで「郵政選挙」でした。そのように世論を喚起し、「争点化」を図ったことが自民党の最大の勝因です。で、例えば今回の郵政総選挙における有権者の分布が図4のようになっていたとしましょう(そもそも今回問題となった「郵政民営化」とは何か、ということは、たぶんみんな違う考えを持っているので、そこには突っ込みません)。線が変なのは気にしない!

この場合X軸は郵政民営化の程度と考えます。右は超ラディカルな民営化論者、左はかつての郵政省回帰論者とでもいいましょうか。で、今回の選挙では郵政民営化に大きなこぶがあり、なだらかに左に向けて減っていく、ということだったのではないかと思います(実のところ、アメリカにおける「イデオロギー」あるいは「政党帰属意識」ほど確立したものではなく、今回の「争点化」によって形成されたものなので、後に述べる政党の位置取りとは「鶏と卵」です)。
さて今回、自民党郵政民営化に位置取りし、国民新党新党日本は民営化反対にスタンスを置きました。民主党は中間ぐらいをふらふらしていました(公明党は支持者層が特殊なので、ちょっと今回は脇に置いておきます)。というわけで、各政党の位置取りと獲得可能有権者層を図示すると図5のようになります。


というわけで、この点に限って言えば、自民党が勝利するのでした。
有権者分布がこのようになっていたならば、民主党がとるべき戦略は郵政民営化を主張することでした。事実、選挙戦に突入してから民主党はじりじりと民営化の方向へスタンスを変更しようとしていました。しかし、国会審議の経緯もあり、位置取りの変更は限りなく困難でしたし、たとえ位置取りを変更したとしても、有権者が額面どおり受け取ることは困難でした。
ことここに至っては郵政民営化以外のことを争点化せざるを得ず、よって民主党は年金等の「もっと大事なこと」へ舵を切ったのですが、残念ながら「郵政総選挙」は覆りませんでした。
ダウンジアンモデルから郵政選挙を見るとこうなる、という話でした。ま、仮定が多すぎるので妥当ではないような気がしますが(特に争点化は単純なダウンジアンモデルからは理解できないし(鶏と卵)、何よりこの国には政治的特異点公明党」が存在する)、ご参考まで。そのうち「B層」の件でも取り上げますか。


…あ。新党形成のダイナミズムとか、こぶが多数の場合とかの解説忘れてた。そのうち「下の下」を書きます。そのうち。たぶん。